長年、現場で数多くの排水トラブルを解決してきた職人の立場から申し上げますと、浴槽の排水溝の流れが悪くなる最大の原因は、実は多くの人が無意識に行っている「入浴後の放置」にあります。浴槽にお湯を溜めたまま一晩放置する、あるいは翌朝に洗濯のために残り湯を使うという習慣は、節水の観点からは素晴らしいものですが、排水管の健康という視点で見ると非常にリスクが高いのです。お湯が温かいうちは皮脂や石鹸成分は液状に近い状態で浮遊していますが、時間が経って温度が下がるにつれて、これらは配管の内壁で固形化し、こびりついてしまいます。最も効果的なメンテナンスは、実は入浴直後のまだお湯が熱いうちに、一気に栓を抜いて流してしまうことです。このとき、お湯の重みによる強い水圧、いわゆるフラッシング効果が働き、配管内の汚れを自然に押し流してくれます。また、流れが悪いと感じた際にすぐに強力な酸性薬剤を投入する方が多いですが、これも注意が必要です。現代のユニットバスの排水トラップは多くの樹脂パーツで構成されており、あまりに強力すぎる薬剤を頻繁に使いすぎると、素材を傷めたり、パッキンを硬化させて漏水の原因を作ったりすることがあります。私がお勧めする家庭での予防法は、週に一度、浴槽に溜めたお湯を一気に流す際に、洗い場の排水口にラバーカップ、いわゆる「パッコン」を当てて、数回軽くピストン運動をさせることです。これにより、物理的に水流に振動が加わり、こびりつき始めたばかりのヌメリを剥がし取ることができます。さらに、髪の毛を通さない目の細かいネットを装着することも不可欠ですが、ネットを通過してしまうような微細な繊維やカスを溜めないために、月に一度は排水トラップを完全に分解し、中にある部品を中性洗剤で洗ってください。もし、栓を抜いたときに洗い場の排水口から水が溢れてくるようなら、それはすでに自力での解決が難しい「重度の詰まり」のサインですので、無理をせずプロの洗浄を依頼すべきタイミングです。排水溝は家の血管と同じです。詰まってから治療するのではなく、日々のさらさらとした流れを維持するためのちょっとした心がけこそが、結局は最も安上がりで確実な住まいのメンテナンスになるのです。
水回り職人が教える浴槽の排水効率を維持するための秘訣