それはある穏やかな日曜日の午後のことでした。いつものように昼食の片付けをしていた妻が、突然キッチンで声を上げました。シンクの水が全く引かず、排水口からゴボゴボという不気味な音が聞こえるというのです。最初は市販のパイプクリーナーで解決できるだろうと高をくくっていましたが、いくら薬剤を投入しても状況は改善しません。それどころか、洗面所や浴室の排水もどこか頼りなく、家全体の排水システムが悲鳴を上げているようでした。嫌な予感がして庭に出て、排水管が通っていると思われる場所の汚水枡の蓋を開けてみることにしました。マイナスドライバーを差し込んで重い蓋を持ち上げると、そこには想像を絶する光景が広がっていました。汚水枡の中は、まるで雪山のように真っ白な塊で埋め尽くされていたのです。それは長年、キッチンの排水に含まれるわずかな油分が蓄積し、冷えて固まった脂の塊でした。この塊が排水の出口を完全に塞ぎ、行き場を失った水が枡の中で溢れそうになっていたのです。慌てて専門業者に連絡をしましたが、到着を待つ間にも水は少しずつせり上がってきます。業者の説明によれば、こうした汚水枡のトラブルは、日頃のメンテナンス不足が最大の原因とのことでした。特に我が家のような築二十年を超える住宅では、コンクリート製の枡にわずかな段差が生じ、そこに汚れが引っかかりやすくなっていたようです。高圧洗浄機を使った作業が始まると、管の中からソフトボール大の油の塊が次々と飛び出してきました。作業が終わる頃には、枡の底にある綺麗な溝がようやく姿を現し、水は何事もなかったかのようにスムーズに流れ去っていきました。今回の騒動で痛感したのは、汚水枡はまさに「家の血管」であるということです。心臓であるキッチンやトイレから流れるものが、血管である排水管や汚水枡で滞れば、家全体の機能が停止してしまいます。これまで、排水口の掃除には気を配ってきましたが、その先の外にある枡の状態までは意識が及びませんでした。あの日以来、私は年に一度、庭にあるすべての汚水枡の蓋を開けて点検することを習慣にしています。白く固まった油が見え始めたら、早めに取り除く。このたった十分の作業が、高額な修理代と精神的なパニックを防ぐための、最も確実な方法であることを身をもって学びました。